ハンターゲーム




この腕の中に欲しいのは君だけなんだ<2>



「なぁ、章三。ゲーム中な、悪いが託生についててくれないか」

やけに神妙な顔でいいながら、スッと差し出されたイチゴ牛乳。

素直に受け取ったものかとしばし迷う。

「なんでだ、ギイ。走り回って逃げ続けるわけでなし。葉山だってそれなりに祠堂での生活は長いんだ。

どこへなりと隠れるだろう」

むしろ、僕等よりも祠堂で人目につかない場所には詳しいかもしれない。

1年の頃、周囲と馴染もうとしなかった元接触嫌悪症の重症患者だった葉山は授業が終わった寮の中、

殆ど見かけることは無かった。

自室に籠もっているのかと思っていたが、当時彼等の部屋の下の階の住人に、あること無いこと

吹っかけられて絡まれていたから、途中からは極力部屋には居ない様にしていたことを、

彼等の上の部屋の住人だった僕は知っていた。

と、云うことは、人知れずどこかに隠れる場所を持っていたということに他ならない。

かつての僕の様に。

「そんなことは解ってるさ。託生は”ハンター”からは、上手く隠れるだろうってことは、解ってるんだよ。

けどな、ハンター以外には警戒心なんて持たないだろ」

「まぁ、そりゃそうだろうな」

むしろ、助けかねない勢いかもな、とは口にしないのが賢明だろう。

「そんな中に不埒な輩がいないとは限らないだろ」

と、云うよりここぞとばかりにってことの方がギイとしては心配なくらいなんだろう。

何といっても、本人には全くさっぱり自覚が無いようだが、影で密かにモテている・・・らしいのだ。

しつこい様だが、僕には全くそういう意味では理解は出来ないが。

特に3年になって、ギイが傍を離れた途端に、葉山と懇意になれないものかと虎視眈々狙っている輩が

増える一方な事には僕も気付いてはいたけれど。




葉山自らが身を隠す。

ハンターであるギイからは特に。

そんな中、人目につかないことを良いことに好からぬことを仕掛ける輩が現れるのではと懸念

しているのか。

全く、ヤキモチ妬くのもホドホドにしろよ。

とは思うが、ギイの懸念も解らなくはない。

3年になってからの葉山は、ギイとの仲を悟られないように懸命で、その健気な様は僕でさえ、

見ていて胸が痛むほどだ。

からかわれる度、一生懸命、律儀に否定を繰り返す。

きっとその度に本当はひっそり傷ついているのだろう。誰だって、最愛の人との間をを自ら否定するのは、

辛いことだろうから。

1年の頃の刺々しさはすっかり成りを潜め、感情を素直に現すことも増えた。

ふわりと微笑む顔は、まるで蕾が花が綻ぶようで。

そんな姿に不思議と周囲が和んでしまう。

そして、時には、ついうっかりとこちらの本音をぽろりと零させてしまう。

そんな存在だ。

本人、無自覚ってのがオソロシイが。

「わかったよ。僕もただでコレだけ貰ったんじゃ寝覚めが悪いしな。ギイの葉山を守っててやるよ」

ニヤリと笑って云ってやると、ギイはホッと安心した顔で微笑んだ。






「にしても、のどかだな〜。ホントにハンターいるのかね」

「ん〜。そんなこと云って、ハンター来ちゃったらどうするんだよ」

「そうだな。葉山を差し出して僕は逃げるとするか」

「えーーー!勝手にココへ来といてそれはないだろ」

ぷっくり頬を膨らませて拗ねてみせる。

なんだかな〜。コイツ本当にこれで高3男子か。

呆れて見ていると

「なんだよ」

目のふちを悔し気に、ほんのり染めて上目遣いに睨んでくる。

途端。

「ぅわ」

「あ」

小さな声とざわりと揺れる気配がした。・・・ギイ曰く”不埒な輩ども”の集団。

視線を巡らせると、いつの間にか同志が(つまりハンターから身を隠している同志という意味であって、

決して葉山を追ってという意味ではない)そこここに隠れてこちらを、正確には葉山を、見ていた。

「え?なに?」

よもや自分目当てに集まった群集とは夢にも思っていない葉山がその結構な人数・・・片手じゃ

足りない感じだ・・・に戸惑っている。

「あんまり人に知られてないって思ってたのに、結構みんな知ってたんだ。この場所」

いたく残念そうにポツリと呟く。

「でも、ないだろ。葉山がこっちの方来るの見えて、良い場所、知ってるんじゃないかって

ついて来ただけだろ」

「そうなのかな」

「少なくとも僕はそうだがな」

葉山を追ってきた、のは嘘じゃない。

「なんでさ」

「自信に満ちた足取りだったからな〜。葉山が。しかも珍しく。となるとな。ついて行ってみようって

気にもなるってもんだ」

「珍しく、は余計だよ」

更に拗ねる。が、先程と違い、今回は微妙に嬉しそうな風情だ。

ホント。解りやすいな。思ったことが全部、顔に出てる。

「っぷ」

「なに?赤池君」

「いや、悪い」

笑いながら云っても説得力は皆無だろうなとは思うけど。

と、周囲からも笑い声が広がって。

まるで、さざ波のように、朗らかな笑いで満ち溢れていった。