ぼくらの日常<なりたい自分> 



「なりたい自分ってあるじゃないか」

「ああ、理想像ってやつか」

「そうそう」

「で?」

「例えばさ、身長ももう10pくらい欲しいし。で、察しがよくなるっていうか、気が利いてさ〜」

「っぷ」

「なんで、そこで笑うわけ」

「だって、それじゃあ、葉山じゃないじゃないか」

「え?」

「気の利く葉山って・・・」

「有り得ない!!!」

む。そこまで云うかっ!赤池章三!!!

「第一、後10pって。僕より高くなるじゃないか。お前さん、僕を見下ろすつもりか?」

「そ、そういうつもりじゃないけど」

「ほお?」

「だ、だから、そのっ。別に赤池君に対抗するとかってことじゃなくて、ただ単に、もうチョット

身長が高い方がいいかな〜って思っただけでっ」

「だが、葉山。結果はそういう事になるだろ?」

「そうだけど・・・」

「そうか、葉山の潜在意識の中に、きっと僕を見下ろしたいという気持ちがあるから、だな」

「ええええええ!ちがっ!そんなっ!」

恐ろしい事思ってないって!

「っぶ!」

急に吹き出したかと思うと、章三はお腹を抱えて笑い出した。目に涙まで浮かべてる?

え?どういうこと???

「あっはははははは・・・はっはっは!く、く、く」

「あ、赤池君っ?」

「葉山、冗談」

「へ?冗談?」

「やっぱり、葉山。外さないな〜。あ〜、可笑しい。さっきの葉山の顔!」

まただ!からかわれた!!完全に弄ばれてる。

「あのね〜、赤池君。いい加減に笑うの止めろよ」

「く、く、く。いやスマン。これだから、葉山をからかうのはやめられないんだよな〜」

あのね。

「なんだ?えらく楽しそうだな、お前ら」

背後から、気のせいか、ムッとしたようなギイの声。

振り返ると、なんだか微妙に不機嫌そうな、そうでないような。

「ああ、ギイ」

「また、託生で遊んでたな章三」

ぼくで遊ぶって、随分な云われような気がするんだけど、ギイ。

「だってさ。あまりに思った通りの反応してくれるもんだからさ」

思い出したのか、また笑いながら章三が答える。

「で?今回はなんだったんだ?」

「ああ、それがさ・・・」

ざっくりと章三が先ほどの話をかいつまんでしてみせる。ぼくが睨んでも柳に風。

効果なんて全くないらしい。わかってるけど。

「それは、困るな」

「あ?何がだ?」

一緒になって笑うかと思ったギイは、そうではなく、顎に手をやりぼくを見つめてボソッと云った。

「察しが良くて、今より10p身長が高くなった託生、だろ?」

眉間にシワまで寄せてる。

「それじゃあ、オレが色々教えてやる楽しみがなくなる上に!」


「こう、なんていうかさ。この腕に託生を包みこみにくくなっちまうじゃんか!!!」

「はぁ?????」

この馬鹿御曹司!なんて事を云うんだ!!

「いってぇ!」

ぼくは真っ赤になりながらもギイの足を思いっきり踏んづけてやった!と、同時に章三がギイの頭を

手にしていたノートをくるりと丸めて・・・

「お前ら、なんなんだよ、この抜群のチームワークは!」

「ギイこそ、なんてこと云うんだよ!」

「なんでだよ!オレは本当のことを云っただけじゃんか」

「恥じらいってものがないの?」

「だって、別に恥ずかしくな・・・いてっ」

ポカリ。

章三の2発目がギイの頭にヒットした。

「暴力反対」

「ウルサイ。今直ぐ、その口を閉じろ、ギイ。さもないと・・・」

云うと章三はもう一度腕を振り上げた。モチロン、ぼくにも止める気はない。

全く、なに考えてるんだ。

「葉山。お前の躾がなってないから、コイツが増長するんだ。しっかりしろっ!」

それ、ぼくに云いますか?

ぼくにギイを躾けるなんてできる訳ないだろ。って、云うか・・・赤池君にも出来ないくせに。

とは、恐ろしくて云えないけど。

「なんだ?何か云いだげだな、葉山」

「ううん、別に。そんなことないよ」

「ふうん?」

胡散臭そうにぼくを見ながらも、それ以上は追求してこなかった。

どうやら、章三なりに、何かを感じ取ったらしい。ギイはと見れば、何やら可笑しそうに笑いを

こらえている表情だ。どうやら、こちらもぼくの云いたい事がわかってしまったとみえる。

そして、それに対して章三が返す言葉を持たないことも。


・Excuse4→

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