名前を呼んで・・・
〜Name is called〜<4>
あまりの呆気なさに、僕等のそして何より葉山の気持ちはどうしてくれるんだ!
と誰かに怒鳴りつけてやりたいくらいだ。
珍しくギイの300番で矢倉と三洲、そして僕がかち合った。
元来、ギイという奴は好奇心と探究心が旺盛な、三洲に云わせれば野次馬根性に
あふれた性格を持っていて、1人放っておくと、勝手に部屋を抜け出す
だろう事は想像に難くなかった。
が、今回はそんな事をされると本気で困る事態を招きかねないという事で、その上、
僕等はれっきとした受験生なのだ。そうそう厄介ごとの事態収拾に当たって廻るというのは
ご免こうむりたかった、という事情もあり、昼間は必ず誰かしら見張りを兼ねて
ギイの部屋にいるようにしていた。
それぞれが、受験やそれにまつわるあれやこれやで下山を余儀なくされる事もあり、
初めに絶対に祠堂にいない日というのを上げ、そこだけは、穴があかないように配慮したが、
他は各自がめいめいに300番を訪ねていた。
今日は、そんな偶然が重なったらしい。
他愛もない話や情報交換を交わしていた。
「あ」
小さな声だった。
「ミツケタ」
声に嬉しそうな響きがあった。
1点を見つめている。
ギイの視線のその先を追うと、そこににいたのは、のんびりと寮へ向かって歩いてくる
片倉と葉山の姿だった。
「え?ギイ?」
「え?」
「おい、ギイ、大丈夫か?」
「あー、矢倉。あれ、誰だ?1年?2年?けど、隣の奴は3年だよな?随分と親しげじゃんか」
「おい、ギイ!」
「なんだよっ?」「記憶、が戻った・・・ってことじゃないんだよな?」
「はぁ?何も変わらないぜ?って、だから、今の誰だ?あの背の低い方」
「なんで?」
「なにが?」
「なんであれが誰なのか訊くんだ?」
「なんでって、そりゃ、お前、・・・あれ?なんでだろうな。けど、気になったんだよ。
で、あれ誰だ?なんて奴?」
「・・・背の高い方が片倉で、もう1人は葉山。2人とも3年だよ」
「ハヤマ、なに?下の名前は?」
「託生」
「ハヤマ タクミ、か。そうか」
口の中で転がすように名前を繰り返すギイを見て、先程の言葉が気になった。
「なぁ、ギイ。さっき窓からアイツら見て”ミツケタ”って云ってただろ?それ、どういう意味だ?」
「んー?云ったっけ?そんなこと・・・ああ、云ったか。うん、特になにかって理由は
ないんだけどさ、勝手に口をついて出てたんだよ。・・・なんでだろうな・・・?」
「なんだ?それ」
「オレにもよく解らん」
「・・・思い出した、訳じゃないんだな」
「ん?オレとそのハヤマ タクミって、何かあるのか?」
「あるといえばあるさ」
矢倉が返事に詰まる前に三洲がさり気なく会話に加わる。
余計な事は云うなと目線で釘を刺しながら。
「1年2年と崎と葉山はクラス一緒だったのさ。普通、2年も同じクラスにいれば、
嫌でも何らかの関わりもあるさ。だろ?赤池」
「まぁな。それを云うなら、僕もだけどな。しかも、僕と葉山に至っては3年連続だ」
「へえ」
どうやら、ピンとはこないらしかったが、僕と葉山が3年連続で同じクラスだったと
聞いた時に微かに不快そうに眉を顰めた、それもどうやら無意識に。
「俺は、今年、葉山とは同室だがな」
「三洲と・・・って、ことは、この真下?」
「そういうことだ。さて、と。同室者が戻ってきそうなことだし、俺は部屋に戻るよ」
葉山の意向で、ギイには敢えて葉山の事は伏せている。
それは、確かに本人の意向によるものではあるが、だからといって、その決断が
葉山本人を苦しめている事は明白で。
三洲としても、葉山を一人にして放っておく事は出来ないのだろう。「ごちそうさま」とコーヒーを飲み干し立ち上がる。
と、そこへ
「なあ、三洲。オレも一緒に行っても良いか?」
ほんの一瞬、逡巡した後、三洲はいつもの柔和な笑顔で
「俺は構わないが、葉山がどうかは俺には判らないな。だが、崎もこの部屋に軟禁状態じゃ、
息が詰まるだろうからな」
いいんじゃないか、そう続けた三洲に
「サンキュ」
安心したように嬉しそうな笑顔でギイも立ち上がる。
住人不在の部屋に残っていても仕方がないので、矢倉と僕も立ち上がり、何となくみんなで
連れ立って階下へと向かう。
どうなるのか、心配と不安と、そして希望を秘めて。