名前を呼んで・・・

   〜Name is called〜<6>




三洲に促され、室内へ入ると、僕等は取敢えず座った。

三洲は自分自身のベッドに、葉山はその隣に、僕は葉山の椅子に、矢倉は三洲の椅子に、

そしてギイは葉山のベッドに腰掛けた。


「さて、と。先ずは基本的な事を確認しておく。崎、記憶は?」

「え?」

無意識の内に正面に座る”葉山託生”を見つめ続けていたらしい。

三洲 に話しかけられている事に一瞬気付くのが遅れた。

「崎」

「ああ、記憶、ね。何も。何も思い出してはいない」

応えながらも葉山から視線が外さない。いや、外せない。

不躾けに見続けるオレに閉口したのか葉山が居心地悪そうに身じろいだ。

「崎君、なに?」

「ギイ」

「え?」

「葉山はオレを”ギイ”とは呼んでくれてないのか?」

「俺も崎と呼んでる」

葉山が応えるより早く三洲が応えた。

「それより、ギイ。どうしたんだよ」

矢倉が割って入るように声を掛ける。

「何が?」

自覚がないのか矢倉の質問にもピンと来ない様子で・・・。

「何がって、なぁ。おい、赤池」

「って、そこで僕に振るか、矢倉」

一度、葉山を見やってから、切り出した。

「だからな、ギイ。葉山を見てから、急に様子がオカシイからどうしたのかって、

訊いてるんだろうが。・・・まさか、本気で自覚が無いとは云わせないぞ」

「オレ?ああ、そうだな。けどなぁ、仕方がないだろ。記憶は無いが、そんなの関係なく、

<運命>ってのはあるもんなんだと知って、流石に動揺してるんだよ」

「運命?!」

異口同音で僕と矢倉が鸚鵡返しに訊くと、超現実主義者(スパーリアリスト)な

ギイが平然と当然という顔をして

「そう!<運命>!」

と鮮やかに笑う。

晴れ晴れと、それは幸せそうに。

一方の葉山を見れば、信じられないという表情(カオ)だ。

大きく瞳を見開いて、食い入るようにギイを見つめている。

そんな葉山に微笑みかけて、言い聞かせるように

「運命だ。運命ってのはあるもんなんだよ、葉山」

穏やかに、宣言ではなく、宣告した。

「ぎ、・・・なんで」

小さく葉山が呟く。

「なんでだろうな。けど、思惑とかそんなの関係ない。運命ってのが確かに在るんだって

解ったんだよ。だからな、逃げようと思っても無駄だと思うぞ、葉山」

云うと、立ち上がり葉山に近づく。

「ダメだよっ!そんなの、第一、君の勘ちがっ・・!」

「違うっ!!記憶なんて関係ないね。これは絶対勘違いなんかじゃない」

葉山が言い切る前にギイが大きな声で遮り詰め寄ろうと更に一歩踏み出したところに、

すいと立ち上がった三洲が入り込み遮る。

ギイに背を向け葉山の正面に視線を合わせるように膝をつくと

「葉山。お前の気持ちも解らないじゃない。だが、これ以上逃げるのは得策とは

思えないな。逃げ回ってても、何も変わらない。そうだろう?」

そっと告げる三洲に、葉山は瞳を伏せた。

「第一な、記憶があろうとなかろうと、崎の本質”単純バカ”は変わらないさ。性格もな。

しかも、諦めが悪いときてる。ちゃんと向き合って話した方がいいと思うぞ」

「三洲、随分な云われ様だな」

「本当の事だろう」

憮然と腕を組み三洲を見下ろしながら云うギイにも全くたじろぐことなく対峙する。

「なぁ、赤池。三洲のイメージが違わないか」

不思議そうにいう矢倉に

「まぁ、そうとも云えるし、そうでないとも云えるな」

「なんだ、それ」

無理も無い。

夏休みの九鬼島での三洲を知ってる僕としては、三洲がただ柔和で穏やかな人物だけでは

決して無いと解っているが、ここでの完璧な生徒会長の三洲 新のイメージしかない矢倉には、

ここまでズケズケと、しかも記憶の無い相手に対して物を云うとは思っていなかったのだろう。

2人で声を潜めて話す間にも3人の、というか三洲と葉山の間には進展があったようだった。

「三洲君、云い過ぎだよ」

「どこがだ。勝手に無理を押し付けておいて、今度は勝手に忘れて、挙句<運命>だの

なんだの云う輩の肩をもつことなんて無いと俺は思うけど?」

「三洲君・・・わかったよ」

諦めた様に微笑むと頷いた。

「と、云う訳だから、後は2人で話し合うんだな、崎」

そう云うと、立ち上がりギイの耳元で何事か囁く。

「おい、それって!」

「ほら、さっさと行け。悪いが、赤池と矢倉は、もう一度上まで2人を送ってやってくれるか。

2人だと目立ってしょうがないからな・・・崎、”これ”も;貸しにしておいてやる」

「あ、ああ。それはかまわないが・・・いいのか?葉山」

トントン拍子に決まった話に、戸惑いつつも葉山の気持ちがどうなのか気になった。

「え?あ、うん。ごめんね、2人共。面倒掛けて」

「今更だ。気にするな。これも乗りかかった船だ。第一、いつまでもこのままじゃ

僕等も困るからな」

「ま、それはそうだよな」








                     


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