名前を呼んで・・・
〜Name is called〜<7>
「なんだよ、それ。する訳ないじゃんか」
「葉山、正直に、な。取り繕っても、どうせ無駄だ」
「赤池君・・・」
そんなやり取りを最後に2人は戻っていった。
「さて、と。中へどうぞ」
そう云って微笑んだ顔が、優しくて、こんな時だっていうのに見惚れてしまいそうに
なってしまって、慌てて俯いた。
ソファに腰を落ち着けると、僕の正面のラグにギイが跪いた。
そして・・・
「ごめん、葉山。オレはお前に残酷な仕打ちをしてる、よな」
「・・・」
「ごめん、本当に。しかも、今現在もオレには記憶は戻っていないけど、でも。
でもな、本当にお前の事は、オレとお前の間にある<運命>は解るんだ。
この<絆>はこんなことで断ち切るなんて出来やしないってことも」
「そんなの、さっきも云ったけど、君の思い違いなだけっ・・・」
「違う!絶対に。これだけは譲れない。なぁ、お前だって本当は解ってるはずなんだ。
そうだろう?」
「解らないよ、ぼくには解らない」
「なんでだよっ。目を背けたって無駄だ。これは<運命>なんだよ」
「止めろよ。そういうこと簡単に云うの。ギイ、自分の立場とか解ってないから
そんなこと云うんだ」
「解ってるさ。いや、仮に解ってなくても、そんなの関係無い。オレにはお前が
必要なんだ、絶対に!」
真正面から射竦められて怯みそうになるけど、ここで折れる訳にはいかないから、
ぼくは精一杯見つめ返した。
「止めろよ。ギイ、折角忘れたんだから、このまま忘れてしまった方がいいんだよ」
「お前は?」
「ぼく?」
「そう、お前は忘れられるのか?」
そんな訳無い。そんなことは解りきってる。だけど、ぼくは視線を逸らすことなく
君に告げる。
君を守る為なら、なんだってできる筈だから・・・。「できるよ」
嘘だ。
「嘘が下手だって云われるだろう?」
「そんなの関係ないだろ」
「お前のことでオレに関係ないことなんか何一つ無い」
「だから、止めろよ、そういうこと云うの!」
なんで解ってくれないんだ、ギイ。
ぼくのこと、忘れたなら、丁度良いんだよ。
ぼくのことなんてこのまま忘れてしまった方がギイには良いんだよ。
口には出さなかった言葉なのに・・・
「忘れたからって、それがなんだって云うんだ!?だったら、また始めればいいんだ!!
ここから、始めれば良いだけのことだ!!!」
「なに云ってっ・・・」
どうして、どうしてギイ。
「思い出す。絶対に!けど、仮に!仮に思い出せなかったとしたって、
それは、それについては一生掛けてオレは贖うけどな。だけど、そのことと
これからのことは別だ。”これまで”を忘れたのとしても”ここから”始めていこう」
「ダメだよ。そんなの、ダメだ、よ」
「ダメじゃない。絶対、ダメなんかじゃない」
「だって・・・」
「オレを、オレ達の<運命の絆>を信じろよ。解るだろう?」
「だ・・・って・・」
こんな風に真正面からこんなにも真摯な瞳で見つめられてしまったら、
これ以上抗うことなんて出来なかった。
「ギイ、ごめん、ね」
「泣くなよ、オレはお前の託生の泣き顔が一番苦手なんだからさ」
「・・・いま、なんて?」
「え?だから、泣くなって」
「じゃなくて、その、後」
「後?託生の泣き顔が一番に、が・・・って、オレ、前にも云った、よな?この台詞」
今、ギイ。”託生”って呼んで、くれた、よね?
まさか、ギイ?思い出した、の?
「ああ、そうだ。間違いない」
呟くと、ゆっくりと瞳を閉じて、またゆっくりと開く。
「・・・ただいま、託生。遅くなってごめんな。帰ってきた、帰ってきたから。な。託生」