想いをのせて・・・<2>



あまりに思いがけない言葉にポカンとするぼくに苦笑してギイが云う。

「だってさ、お前、バイオリンで語るだろ?佐智もそうだけどさ」

「え?」

「だーかーらー。佐智は確信犯だから仕方がないとしてさ、お前なんか無自覚だからな〜」

続く言葉に益々訳が解らない。

「ま、そこが好いっていうか、だからこそというか、だな」

「うん?」

「お前が真剣に演奏してるの聴いてたら、ガンガンに伝わってきちゃう訳だ。お前の気持ちとかさ」

つまり、それって・・・。

「勿論、その音楽そのものに没頭してる時もあるけどさ、そうじゃなくてさ、

オレに聴かせてくれてる時な」

「わ〜、タンマ!ギイ。止めて、解った!云わなくていい!!」

「お前がオレをどう想ってくれてるか、どんなに深い想いをもってくれてるか伝わってくるんだ」

「それはっ、ギイッ」

焦るぼくにお構いなしにギイの言葉は続く。

「嬉しいんだけどさ、勿論それってめっちゃくちゃ嬉しいんだけどな」

けど?迷惑だった?ギイ、嫌だった?不安に思っていると、違うよというように微笑んで

「違うって。変な心配するなよ、託生。そうじゃなくてさ、オレ、嬉しいのと同じくらい

悔しいっていうか、羨ましく思うんだよ」

「え?」悔しい?羨ましい?何それ?およそギイらしくない言葉だ。

「オレは知っての通り、音痴だし、音楽に関しては聴く専門でさ。コレばっかりは、どうも相性が

合わないっていうかさ。況してや、そこに想い、とか心を乗せるなんてこと、とても出来ないしな」

確かに、リズム感はいいのに、何故だかギイは音程と相性がすこぶる悪い。

「託生のように自分の気持ちを自然に”音”に乗せて伝えられたらって思うんだよ」

「そんなに、わかっちゃう?」

「ああ、バッチリ」

うわ、今更ながら恥ずかしさがこみ上げてくる。

「で、いっつもオレばっかり、こんなに幸せな思いさせて貰ってさ。この気持ちを託生にも

感じさせてやりたいって思うんだ」

「ギイ」

「すっげ、幸せな気持ちになるんだ。静かに奥深くから染み渡るように染込むように

託生の想いに包まれてさ。満たされてくんだ」

「・・・ギイ」

「だからさ、出来ることならさ、託生、お前にもこういう想いをさせてやりたいなって

思うんだけどさ」

「ギイ」

「代わりにオレに出来ることっていったら、素直に心に思ったことを、

言葉に現すことくらいかなってさ」

”素直に言葉に表す”ぼくにとっては、その方がよほどの難題なのだけれど。

「あ、伝えずにはいられない気持ちになるってのも、あるけど」

「ギイ、ありがと」

「オレの方こそ、ありがとう、だ」