お願いだから・・・<2>



遡ること4時間ほど。

昨夜、ギイの部屋に泊まったぼく。

休日なのをいいことに、ゆっくりと朝寝坊をして、昼前頃にブランチを取り・・・。

その後も久しぶりに、本当に久しぶりにギイのゼロ番でのんびりと過ごしていたのだけれど・・・

ブラックホールの異名をとるギイの胃袋は、昼頃にはしっかり空腹になってきたらしく。

「腹減った」

呟くギイに

「じゃあ、食堂、行ってくる?」

「託生は空いてないんだろ?オレ、今日は一日お前とずっといたいんだ。置いていったら、

お前、部屋に帰っちまうだろ?」

まぁ、ギイの部屋とはいえ、一人ではね。

「そうだね。一人でここにって云うのは」

「じゃ、行かない」

最後まで云わせずそう云うと、ぼくをギュッと抱きしめた。

「ギイ。じゃ、一緒に行く?ぼくはコーヒーでも飲んでれば」

「行かない。下手にそんなとこ行って、メンドーな奴らに獲っ捕まっても厄介だしな。

君子、危うきに近付かず、だ」

「けど、ギイ。お腹、大丈夫?」

心配して見上げるとニンマリ満面の笑み。

「ふっふっふっ。こういうときの為に、抜かりは無いんだよ、託生君」

そう云うと、スッとぼくを放すと部屋の奥へと歩いていく。何やらゴソゴソしていたかと

思うと・・・ジャジャーン!効果音つきで振り返った。

その手には、特大サイズの”ペヤング超大盛ヤキソバ”!!!

「前に買い溜めしといたんだ〜!」

「そ、そうなんだ」

ギイの瞳、キラッキラと輝いてる。こんなにホクホク顔で、いそいそとカップヤキソバを作る

御曹司なんて他にはないだろうな。でも、そういうトコも好いなぁなんてコッソリ思っていた。

「託生にはコーヒーでも淹れようか?」

「あ、ありがとう」

「美味いの淹れてやる」

鼻歌でも歌いだしそうな勢いだ。なんだか、こんな時間って好いな、なんて思ってたら、

あっという間に指定の時間・・・

ギイはと見ると、ぼくの為のコーヒーを常にも況して丁寧に淹れてくれている最中だった。

ノビたら美味しくないしね。そう思って、ヤキソバに手を伸ばし、

シンクへと向かい、湯切りを・・・・・・

アッという間もなかった。

「あーーーーーーーーーーーー!!!」

隣で悲鳴が上がる。湯切りの為に器を傾けた瞬間、中身がほぼ全部シンクへ。

それも、生ゴミだのなんだのが溜まっていく場所に。

「ぎ、ギイ?あの、ごめんね、ぼく・・・」

「shit!・・・っ!ごめんで済んだら、警察はいらんっ!!」

滅多なことでは授業以外では、咄嗟の時でさえ彼の母国である英語を使わないギイ。

だというのに。

「あの、ギイ。もう1個つくっ」

「生憎、コイツが最後の1個だったんだ」

「・・・」

真正面から睨まれて、立ち竦む。こんなに怒ってるギイは初めてかもしれない。

取り敢えず、片付けようと手を伸ばすと

「触るなっ!」

声を荒げて

「もう、ここはいいから、お前はあっち行ってろよ」

ソファをツイと見る。これ以上機嫌を損ねたくなくて、云われるままにソファへ腰掛ける。

トンと目の前にコーヒーの入ったマグカップ。

「折角淹れたんだ、飲め」

ぼくの好みに調整された美味しいコーヒー。だけど、味なんて全然わからない。

「あの、ギイ。ほく、本当にごめんね。ちゃんと弁償するから」

そういう問題ではないとは充分承知だけど、せめて今はこれ位しか思いつかずに、そう云うと。

「・・・はぁ(溜息)・・・悪い、託生。少し出てくる。けど、お前、部屋に帰るなよ。ここに居ろよ。絶対だぞ」

苦虫を潰したような顔で部屋を出て行った。