受難、それとも試練?<Fin>



顔を覗かせたのは心配そうな顔をしたギイだった。

でも、うっすら、不機嫌オーラを纏ってるような・・・。

「ああ、つい懐かしくて話し込んじまったなぁ。随分と待たせたな。入るといい。どうせ、今日は

これで終了だからな」

「?」

怪訝そうな顔をしながらギイが中へ入ってくる。

「お。すっげぇ美形だなぁ。君の付き添い?」

先程の彼があっけらかんと云う。

「はい、ルームメイトなんです」

「ああ、ナルホドなぁ。って、キミ等も、あんまり同級な感じ、しないよなぁ」

「えーーー。それってどういう意味ですかぁ?」

「ビジュアル的には随分違うけど、アッチの彼が”中山”だな」

ギイが中山先生・・・。

「っぷ」「ぶっ」

「そ、それって、イメージ違いすぎじゃって・・・ぷぷぷぷぷぷっ」

「けど、そ〜なるじゃん。あははははははははは」

2人して思わず笑い転げてしまった。

事情が解らず憮然とした顔のギイと、呆れ顔の先生をみて更に笑いがこみ上げて来る。

「ほら、その辺にしておけ、2人共。彼氏が困ってるだろう」

「か、彼氏って!ちがっ」

慌てて否定しかけて、別に深い意味で云われたのではないと先生の表情で気付く。

「ダメだって、センセ。それ、祠堂じゃ、あんまシャレになんないって・・・あー解ってて云ったっすね?」

「当たり前だ。で、俺の経験上、これが一番手っ取り早く、正気に戻らせるんだよ。ま、あそこの連中

だけに通じる手、だけどな・・・恐ろしいことに、俺と中山にでも立ったからな〜。そういう噂が」

「げ」

「うそ」

「バッカヤロ〜。噂だ、噂。ヤメロよ、妙な想像はしてくれるなよ」

「託生?」

「あ、そうなんだ。2人とも祠堂学院出身なんだって。それで、この先生は中山先生と

ルームメイトだったんだって」

「マジかよ。・・・って、それでお前とオレが、で、オレが中山・・・」

あっという間に、理解して、破顔しかけて憮然とした。

「けど、オレが中山ってのはなぁ」

「ちょっ、ギイ。呼び捨てにしちゃっ」

「あ、かまわんさ。さっきも云ったろ。教師の宿命さ。わざわざ云い付けたりしないから安心しろ」

「はぁ、すみません」

「っぷ。そこでキミが謝るんだ、律儀というか、お人好しだなぁ」

「ああ、そうだ。安心ついでに云っとくが。君の捻挫も俺がきっちり治してやるから、安心しろ。

で、だな。そこの美丈夫」

「オレ?」

「ふ〜む。普通、そこで否定しないと嫌味になるもんだが、そこまで美形だと、否定した方が

却って嫌味になりそうだな。じゃなくて、だな。きっちり治してやるから、代わりと云っちゃなんだが、

中山への貸しをチャラにしといてやってくれ。まったく、仕方のない奴だ。生徒相手に賭け事な挙句に

随分とツケが溜まってるらしいなぁ」

「ええ、まぁ」

「こないだな、随分と搾られたらい」

ニヤリと笑う。

「女史に?」

「ああ。そうとう叱られたらしいからなぁ。賭け事も、だが”ギイ君相手に勝てるわけないでしょっ”ってな」

「や、それほどでも。でも、ま。女史に、ねぇ。そういうことなら、良いですよ」

快諾して2人して気の毒な中山先生を笑う。

「ああ、でも、今後も手加減は不要だからな。ガンガン追い込んでやれ」

「いいんですか?」

「勝負に情けは不要だからな。あ、でも、これはオフレコでな」





「思いがけず、楽しかったな」

「ん〜?」

「なんか、色々聞けて」

「ああ、まぁな。直近のOBなら、文化祭とかで会う機会もあるけど、あんなに上の方ってのは、

滅多に会うこともないしなぁ」

「だね」

「中々、いいネタも入ったしな」

「もう、ギイってば。ほどほどにしときなよ」

「はいはい」

怪しいなぁ。ま、いいけどね。

「初めさ、結構やっぱり怖くてドキドキしてたんだけど、嫌だなぁって思ってたんだけど、

好かったよ。気が重かったんだけど、楽しい一日になったね」

「だな。けど、疲れたんじゃないか?託生、起こしてやるから、寝てて良いぞ」

バスの中、肩を貸してくれながらギイが微笑む。

「けど、あのもう1人の先輩は、なんだったんだ?治療うけてたみたいだが」

お言葉に甘えてギイの肩にコテンと頭を乗せながら

「ああ、あの人はね。う〜ん、無理矢理にわか助手ってとこかなぁ・・・あふぅ」

あくびを噛み殺しながら、かいつまんで事情を説明した途端!

「なーーーーーーっっ!!!あんっのやろっ!」

ぼくの枕が、基い、ギイの肩が大きく揺れた。

「もう、なんだよ、ギイ。肩、貸してくれるんじゃなかったのかい?」

「あ、こら。託生、寝るな。もっとちゃんと説明しろ、コラ、託生ぃ」

遠くの方でギイの声がするけど、今日の疲れとバスの心地好い揺れに・・・

あぁ、ギイの香りだ、と安心して、安心したところまでは憶えている。





「ふっふっふ。まだまだ甘いな、高校生。勝負は俺の勝ち、だな」
診察室で不適に笑う影があったとかなかったとか・・・。




                            …Fin…

・Excuse4→