遊奏舎 HP



キミはどっちだ!?



何だって、こんな話になったのか。

「だーかーらー、絶対、そうだって」

「なんでだよ」

失礼な。

それはそれは楽しそうに断言する利久を、目一杯睨みつけてはみたけれど。

「だってさ、託生とそういう話、したことってないじゃんか」

「そりゃ、ないけど」

「な!」

「だからって、なんで決めつけられなきゃならないんだよ」

「けどさ、興味、ない訳じゃないだろ?」

う。それは、まぁ、全く無いとは云わないけど。

「片倉、俺は?」

矢倉柾木が、にやにや笑いを浮かべながら訊く。

「矢倉?ん〜なの、決まってんじゃん。矢倉は完全オープン!!」

「だよな〜」

満場一致の勢いで賛同の声が上がる。

「じゃ、ギイは?」

「ギイも矢倉と同類だろ〜?」

「だよな〜。しかもアメリカ人なんだし」

「なんだそれ」

「なんかさ、そういうイメージあるじゃん、アメリカ人=オープン!って」

口々にに勝手なことを云い募る面々は、言わずもがな、全員ぼくの同窓生、

つまり現在受験戦争真っ只中に身を置く立場だというのに。





ここは山奥にある全寮制の男子校、祠堂学院学院。の学生寮の談話室。

本日は受験生同士の情報交換の為に3年生で貸切となっている。

とはいえ、自室で集中して受験勉強に勤しむ者もいる傍ら、こうしてここに息抜きがてら

やってきて、本筋とは全く異なる情報交換という名の雑談に勤しむ輩達も多々見受けられる。

そして、ぼくも利久に誘われるまま、やって来た輩の一人だったのだけど。

「なんでだ。オープンって云われるのには異論はないのに、完全とつくと何でだか

素直に喜べないぞ」

ひっそり、胸元を押さえて矢倉が微妙な表情(カオ)を作ってみせる。

途端に、みんなが爆笑する。

「なんだ?なに盛り上がってるんだ?オレと矢倉が同類がどうだとか聞こえたけど」

「おっ、ギイ。いいところに来たな」

「わわわ、なんでギイ、こんな所にいるんだよ」

「なんだ?矢倉の歓迎っぷりも怪しいが、託生、随分な云われようだな、オレ」

憮然と腕組みをしてギイが云う。

「いやいや、そんな事ないよな〜、葉山。じゃさ、葉山はどう思う?ギイはどっちだと思うんだ?」

「・・・オープン」

「で、葉山はギイとはタイプ、全然違うよな〜」

「・・・違う、けど」

「ほらなー。託生も自分で認めてるんじゃんか。な?な?な?俺の云ってるの

合ってるって認めるよなー」

「えー。それとこれとは話が違うって云うか。ギイや矢倉君がオープン過ぎるだけ

なんじゃないか」

「葉山、聞き捨てならないな〜」

相変わらずニヤニヤしながら矢倉が云う。

「と、利久だって、そういう話、しないじゃないか」

「託生とは、したことないってだけで・・・」

俺だって男だし、と少し、頬を上気させながらも利久が云う。

「えー、ウソ。他の人とは、するんだ」

なんか、微妙にショックだ。

「って、いうか、まぁ、それなりにしたことあるっていうか・・・」

「なんの話をしてるんだ?」

低い声が響く。

うわ、ギイ。目が据わってる、ように見えるのはぼくの気のせい、ではなかったようで。

慌てて利久が

「だ、だからさ。託生は絶対”むっつりスケベ派”だって」

「は?」

「だから、なんで、そんな事決めつけるなよ!!!」

大声で抗議するぼくの隣で、呆気にとられた表情のギイと、それを見てお腹を

抱えて大爆笑している矢倉。

「は、ははははははははっ!いやっ、サイッコ〜!ギイのこんなカオ、

滅多に拝めないぜ」

「託生が”むっつりスケベ”?大体なんだ?その”ナントカ派”って?」

相変わらず話が見えずに戸惑うギイに利久が得々と説明を始めた。

「だからさ、さっき、みんなで”オープンスケベ”か”むっつりスケベ”かって話になってさ〜。

絶対、どっちかに振り分けるとしたら、託生は”むっつりスケベ”だなって」

「なんでだよっ!」

すかさず抗議の声を、上げる。

”むっつりスケベ”って、”むっつり”って何だか陰に籠もってそうでイメージ悪いじゃないか。

なのに、寄りにも依ってぼくの親友であるところの利久が『絶対』ぼくは”むっつりスケベ”

だと云い切るのだ。

これが黙っていられようか。

「だーかーらー。さっきも云ったけど。託生、そういう話とか全然しないじゃん?」

「しない、けど」

「けど、託生だって興味は、ある訳だし」

「う、まぁ、そりゃ、それなりに、はあるけど」

と云うか。

絶対ナイショではあるけれど、ぼくにはギイという恋人がいて。

しかも、とっくにプラトニックな間柄なんかではなくて。

だから、つまり、そういう『話』どころか、まぁ、云ってしまえば、そういう『経験』が

ある訳で。しかも、現在進行形で。

結構、現実のあれやこれやで良くも悪くも振り回されてしまっているぼくは、

今更そんな話をする気にまで至らなかったというだけで。

「な。興味はあるけど、話さないで、でも心の中では色々想像してるってことだろ?だから、

それってオープンじゃない訳じゃんか。と、いう事で託生は”むっつりスケベ”ってことじゃんか!!!」

どうだ!判ったか!!

そんな声が聞こえてきそうな位の自信満々な様子で利久が云い切ると

「ウマいっ!片倉!!的中だ!!!」

利久が弓道部という事に掛けてだろう、そんな声が飛ぶ。

「で、オレと矢倉はオープンっていうことは・・・」

「そうそう、ギイと矢倉は”オープンスケベ派”!!!」

「もう、どっからどうみても、”オープンスケベ派”だよな〜」

「云えてる〜」

これまた、一斉に賛同の嵐。

「まぁ、否定はしないけどな。けど、去年、オレと同室だった時、託生、そんなカタブツって

訳じゃ無かったぜ」

「えー!流石、ギイ。この葉山とでも、そんなのしてたんだ!」

「まぁ、それなりに、かな」

少し照れたように、ハニカミ笑顔で(絶対、ワザとだ!)ギイが云えば

「そっか〜。じゃあ、託生も”オープンスケベ”認定だな!」

嬉しそうな利久の声が部屋中に響き渡った。

この後、祠堂学院3年生の間に【葉山託生はオープンスケベ】なる噂が駆け巡ったとか

巡らなかったとか・・・。


                        …Fin…

・Excuse→