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トクベツのキミと・・・<1> 〜キミだけが、ぼくのトクベツ after〜



「ギイ、痛いって」

去年1年でまるで雨後の筍の如くに成長したギイとの身長の差は、もれなくコンパスの差

にも反映される訳で・・・ギイ、歩くの早過ぎ。

肘をつかまれた状態で連行されて行くぼくを見やる、周囲の訝しげな視線をものともせず、

ギイは無言で歩を進める。

さっきまで、なんだかとても和やかな雰囲気で、一緒に大笑いしていたのが嘘の様に

憮然とした表情のギイ。

どうやら、怒っているらしいことは解るのだけれど・・・。

ギイが怒っている理由が、ぼくには解らない。

皆目、検討がつかない。

ギイがこんな風に人目に配慮することなく、こうした行動を取っている・・・

それって、つまり相当怒っているってことで。

そして、さっきの流れでいくと、その原因が、ぼくにあるらしいことは解る訳で。

そして、過去のあれやこれやを思い返してみるだに、ギイがこんな風に怒っている時って、

実はひっそり深く傷ついている場合が多いのだ。ぼくのせいで。

と、いうことは・・・。

ぼく、またギイを傷つけてしまったんだろうか。

池の中、ポツンと落ちた一滴の雫が波紋を広げてゆくように、

不安がぼくの中に広がってゆく。

「ギイ・・・」





「ギイ・・・」

ポツリと小さな小さな声。

その声にハッと我に返り立ち止まる。

見ると、そこにはすっかり俯いてしまった託生がいて。

慌てて顔を覗き込もうとしたら、身を捩って更に顔を伏せる。

「違うからな」

「え?」

ああ、コイツは本当に。

「オレ、託生に怒ってやしないからな」

「え?でも、だって。怒ってるじゃないか」

「ああ、怒ってはいるけどな。託生に、じゃないぞ」

そう云ったところで、そう簡単に納得してくれる託生じゃない。

「だけど、だって・・・だったら、なんで」

「”目隠し”」

「うん?」

「多いんだろ?してくる奴」

それも、ただの目隠しじゃない。

「そうなんだ、ぼくも困ってるんだけどね」

祠堂は娯楽が少ないから、仕方ないよね、とのんびり続けられた言葉に思わず

溜め息がもれる。

「ギイ?」

それがどうしてオレの不機嫌に繋がるのが解らないと、その表情が如実に語る。

「あのな・・・」

ようやく合わせてくれた視線が、不安そうに揺れている。

「ふう。兎に角、ここじゃなんだから。オレの部屋へ行こう」

そう提案すると、託生を促し歩き出した。

つかんだ腕はそのままに。

さっきは怒りに任せてだったが、今は、ただ、触れていたくて。