不遜なぼく等・・・<3>



「で?本当は何の話をしてたんだ?」

「え?」

真摯な眼差しを交し合って、でも、相棒は楽しげに、そして恋人は面映そうな微笑で

話していた様子を思い出して、オレとしてはなんとも不穏な気持ちになるのは仕方がない。

「だから、何、話してたんだ?」

「ああっと、えーっと、なんだっけ?あれ?」

キョトンとした顔で章三を見て、ああ、そうだったと

「うん。だからね、その思い違いの話?」

「思い違い?」

「えーっと、なんか違うかな。うーんっとね」

「・・・っぷ。葉山、それ、合ってるけど違うって」

吹き出しながら章三がそれじゃあ通じないと続ける。

「それはっ!それは判ってるんだって、ぼくにだって。でもこう、なんていうかさ」

上手く説明出来なくて困ってるんだろと顔に書く託生をみてさらに章三が笑う。

これは・・・。

ハッキリ云って面白くないっ!

なんだ?なんなんだ?この妙な置いてけぼり感。

「あー、葉山」

「へ?」

章三に促されて見ると、明らかに不機嫌そうなギイ。

え?もしかして、ギイ。怒ってる、よね?

でも、なんで?

さっきまでは嬉しそうなで楽しげな笑顔、だった筈。勿論、それはぼくも、だけど。

こんな往来で、しかも章三が一緒、なんかでなければ、抱きしめてきた腕に全部を預けて

しまいたかったくらいだったのに・・・っと、ヤバイ。

思い出ししてしまって、顔に熱が集まってくる。平静に、平静に。

「今更ながらに自分が、いかに不遜だったなと再確認して。ま、反省ってほどのもんじゃ

ないけどな。そういうのをしてたって訳だ」

「はぁ!?章三、説明になってないぞ」

何だそれ?不遜って章三は兎も角、いや、章三はバランス感覚に優れた奴なんだが、

それは横に置いておくとして。

オレに言わせれば、託生は驚くほどに謙虚で、慎ましやかだ。むしろ、あの謙虚さは

もう少しなんとかならないものかと思っているほどなのだ。

そんな2人が”不遜”?

益々もって納得がいかない。

そう思っているのが表情に出ていたのだろう、ようやく溜飲が下がったといった風に

章三がニヤリと笑う。

「ま、思い込みってのは、タチが悪いなって話さ。詳しい事は・・・後で部屋へ行った時に

話してやるさ、な。葉山」

「え?後でって?」

「僕はこれから風紀の方のヤボ用があるんでね。で、その後でそれに絡んでコイツに

用があるから0番に行くことになってる。そんな多忙な僕とは違って葉山は暇だろう?」

「暇で悪かったな」

クス・・・何事か察したらしいギイが笑みを零す、が肝心の葉山はまだ解ってないらしくて、

むっとした顔で僕を睨む。

いいのかね、そんな顔して。そう思いながら、言を続ける。

「事実を言われてむくれるな。で、だ。そんな暇な葉山が僕にスケジュールを合わせるのが

合理的ってものだろうが。だから、僕が行く時に声を掛けるから、そのつもりでな」

「え?それって・・・あの」

殊更ハッキリと周囲にもさり気なく聞こえる音量で章三が告げる。

ここまで云われて、ようやくぼくも章三の思惑に気が付いた。

「解ったか?”ヒマジン”の葉山」

「わ、わかったよ!」

売り言葉に買い言葉・・・の様なやり取りだけど、そうじゃない。

でも、周囲には、章三の都合にぼくの方が無理矢理合わせさせられてるように映るだろう。

「そうと決まれば、また後でな」

くるりと背を向け、自分の顔の横で二、三度手を振り颯爽と立ち去ってしまう。

「じゃ、そういうことで、な」

ポンとぼくの肩を叩きギイもスタスタと立ち去って行く。

肩に触れた瞬間、ギュッと力を込めて・・・あれは、きっと『待ってるからな』の合図。






思いがけずにおとずれた特別室への訪問までの時間までに、ぼくの為すべき事をして、

心置きなく過ごせるように・・・ぼくも歩き出した。

                                                      …Fin…


                     


・Excuse4→