すべからく世はこともなし・・・<4>



そして、体育祭当日。 

言葉通り、昨日の分の鬱屈を晴らさんばかりに、疾風怒濤の勢いで大活躍をみせるギイの

姿がそこにはあった。

「なぁ、おい、葉山。昨日のアレは、やっぱ仮病か」

いつの間か、傍に来ていた矢倉征木が呆れたようにぼくに訊く。

「えっと、なんで?」

ぼくに訊く?

「突然の腹痛で休んでた割りに、あの食いっぷりは、なぁ。しかも、昨日のホットドッグの残りも

食ってたしなぁ。・・・となると、やっぱアイツラのせいか赤池」

「だろうな」

「気の毒なこったな」

「まぁな」

二人して、1年生達の方とギイとを見比べながら、同情の表情を浮かべた。

と、矢倉が何かに気付いたように意味深にニヤリと笑うと

「あ〜、でも、そうか。ギイにしたら、それはそれで、楽しい時間を過ごせて好かったのかもな。

な、葉山」

「し、知らないよっ」

どうやら、ぼくとギイが結構な時間二人でべったり一緒に過ごしていたことを察したらしい。

「ま、なんにせよ、だ。祭り、だしな。好いんじゃないか」

「そういうことだな」

「うん、そうだね」

「よっ、何の話してたんだ?ちゃんと応援してたのか、お前ら」

「してた、してた」

「あのな、僕等はお前達とはクラスが違うからな。当然、ウチのチームの応援だ」

「第一ねぇ、ギイ、ダントツだったじゃないか。しかも、他の人のパンまで食べようとしてたろ?」

そうなのだ。何を考えたのか、この男は俊足を活かしてダントツの速さでパンのところへ到着すると、

普通はパンを咥えて直ぐにゴールへ向かうところを、自分の分のパンをあっという間に

平らげてみせ!挙句、他のパンにまでその食指を伸ばそうとしていたのだ。

(審判に当たっていた蓑岩に見付かり敢え無く失敗に終わったけど)

「ははははは。いや、マジで美味かったんだよ、あのパン。でさ、いっそのこと全部食っちまったら、

必然的にオレの勝ちにもなるし、丁度良いかと思ってな」

「訳、ないだろーが!オソロシイことを云う奴だな」

「ギイらしいっちゃ、ギイらしいけどな〜」

「まぁ、祭りだしな〜」

「うん、お祭り、だもんね」

「そっちは、どうなんだ?」

「そっちこそ。ていうか、そっちは文化祭の展示に力入れ過ぎで、こっちはそうでもないんじゃないかって、

もっぱらの噂だったけど・・・どうせ、それも誰かさんたちが撒いた噂、だろ?」

「流石、章三。まぁ、そう簡単に手の内は見せないってか」

「しかも、ギイ。出所、見抜かれてるし」

「なんの話、してるんだい?」

会話についていけず、こっそり八津に訊くと

「多分ね、アレ。最大の見せ場。”応援合戦”のことじゃないかな?」

「ああ、アレかぁ。そっか。総大将、矢倉君なんだよね?」

「そう」

「で、ギイが副将?」

うわ、なんだか、それだけで既に派手な感じがする。

「そっちは、吉沢なんだよね?」

「うん。で、両脇を赤池君と三洲君が固める感じ」

「それは、また何とも”静かに迫力”ありそうだね」

「あ〜、そうかも」

「こら、葉山。お前、何リークしてるんだ」

「え?ってこれって秘密だったんだ?」

「気にする事はない、葉山。本気の秘密事項なら、葉山には伏せるから」

「三洲」

「まぁ、葉山に秘密にしろといったら、挙動不審で却って痛くない腹でも探られそうでは、あるな」

「ああ、そういう意味・・・って随分じゃないか」

憤慨しつつも、自分でもうっかり納得してしまったじゃないか。

と、一斉にに大爆笑が起こった。

ええ、ええ、いいですよ。どうせね、隠し事とか向いてませんよ。

なんにせよ、ぼくとしては、もっと重大な大切な隠し事をしている身としては・・・

必要以上の隠し事は、とてもじゃないが、していられない。

のだが、その重大且つ大切な隠し事・・・なはずなのに。

なのに、否定しても否定しても、みんなして『な〜んちゃって、あははは』

な対応されてしまうのは、この際別の話として・・・ぼくとしては、ギイとの事は、とてもとても

大切で切なくも苦しい隠し事なのだ。

などと、一人つらつら考えていたら、

「さ〜てと、矢倉。一丁派手にブチかますとするか!」

「おう!」

「・・・託生も、まったどっか出掛けちまってたな。ちゃんと、気合入れて頑張れよ!」

じゃあな、と準備だとかで片手を挙げて走っていった。

「じゃあ、僕等も行くとするか」

章三と三洲も同様だ。

特に役割を当てられていない、取り残された形の烏合の衆のぼくと八津。

「行っちゃったね」

「だね」

「なんで、あんなに燃えるのかなぁ」

「好きだよね〜、みんな」

「にしても、赤池は兎も角、三洲がよく副将なんて引き受けたね」

「ああ、えっとね。赤池君も三洲君も風紀委員長に生徒会長だろ!?だから、文化祭の

準備とかも含めて、なるべく負担が掛からないようにって割り振りがしてあったんだけどね。

体育祭の方は、割と運動部が中心になって、協力とかあって、文化祭よりは手が空くんだとかでね。

それに、外部からっていうのはご近所様とか、まぁ、勝手知ったるな人ばかりで、しかも、なんだかんだ

云っても最終の1日の事だしってさ」

「うん」

「で、せめて、多少なりともメイン的な部分で協力って云うかさ、するって。そうすると、応援合戦って

当日までの合同練習って回数も時間も限られてるからスケジュールも組みやすいし、

他はメインの当人達では打ち合わせはしてたみたいだけど、少人数で合わせ易かった

みたいでね」

「なるほどね」

「これが最後だからって」

「ああ、そうだね」

「うん。最後のお祭りだから、って」