すべからく世はこともなし・・・<Fin>



キリキリキリキリ・・・・・タンッ!

我らが大将の吉沢が羽織袴でもろ肌を脱ぎ、矢を番えた瞬間から場の空気が一変した。

そして、皆が固唾を呑んで見守る中、見事15メートル先の扇が宙に舞った!

とは云え、大勢の観衆がいる中、勿論競技で使用する様な矢を使用する事は禁じられたので、

実際には矢の先には万が一に備えて丸い団子状の布球が付けられていて、

それだけ見ると何とも間の抜けた風情なのだけれど、流石というべきか、吉沢はそんな事を

全く感じさせなず、一瞬で全員を釘付けにした。

すかさず、学ラン(勿論、長ラン)に鉢巻と白手袋という正統な応援団衣装に身を包んだ章三と三洲が並ぶ。

そして、ぼく達チームメイトの方を向いて声を揃えて


「我々には、他のチームの様な華やかさは無い!派手さもない!

また、抜きん出て優れた者もいない!」

「だが、我々にはどこよりも素晴らしいチームワークが有る!」

「自信を持て!胸を張れ!堂々と前を見据えよ!!」


畳み掛けるような掛け声を機に章三と三洲もサッと正面に向き直り始めから正面を見据えていた

吉沢と同じように全員が一斉に正面を見据える。

誰も一言も発しない。

優に5秒はこの状態で全員で前を見据える。

ピンと張り詰めた空気の中、吉沢の声が響く。


「手を携えよ、そして、共に往こう!」

全員が隣同士で肩を組む。

「勝利へ!」(吉沢)

「勝利へ!!」(章三と三洲)

『勝利へ!!!』(全員)

数秒して、章三が

「全員!」

続いて、三洲が

「集合!」

この号令で全員が吉沢の下に集合すると、大将であるところの吉沢が

「一同、礼!」

「ありがとうございました!!!」(全員)



「章三も三洲も面の皮厚すぎだろ」

「全くだ。充分、派手じゃないか」

「至ってシンプルだったろう?」

「シナリオ的にはシンプルでもなぁ」

「と、云うよりシンプル故に際立つっていう・・・」

「で?」

「ああ。案の定、審査、揉めてるらしいぜ。動のC組、静のB組ってさ」

「最初はな、オリジナルの応援歌でも歌おうかと思ってたんだがな、どこかの誰かさんのチームは

どう転んでもそれは出来ないだろ?差がつき過ぎて気の毒だからな」

「それはお気遣い頂きまして、三洲。悪かったな、歌が苦手で」

「っぷ。ギイ、お前のは苦手なんじゃなくて」

「なんだよ」

「音痴」

「や〜ぐ〜ら〜!お前はどっちの味方なんだ」
「強い方」

「・・・けど、ギイ。事実なんだから仕方ないじゃないか」

「いいけどな、別に」

憮然としてギイが返すと、こらえきれずに、そこにいた全員が吹き出した。

「なんにせよ、どっちが勝っても、恨みっこなしってことで」

八津が云う。

それに全員で頷き合いながら、取り留めない話をしていると。

ふと思い出したようにギイがムッとしながら云う。

「にしても、肩なんか組む必要ないだろうが!」

「なんでさ。パッと見て、一致団結って感じ、するだろ」

そう反論すると

「そういうことじゃなくて、だ」

「なんだよ?」

「面白くないだけだ。お前の肩を他の奴が抱き寄せたっていうのが・・・」

「なっ!ち、違うだろっ!その云い方、やめろよ」

「なんだ、なんだ。ギイ。ヤキモチ?」

「葉山も大変だな〜。こんなヤキモチ焼きの相手するのも」

「や、それは〜・・・じゃなくて、だから、別にぼく達は付き合ってる訳じゃなくてっ」

「あー、はいはい。わかった、わかったって」

「健気だな、葉山」

「だから、それも違くてっ!!」

「葉山、言葉になってないぞ。そうだ、崎。実はな、他にハグ、抱き合うって案もあったんだがな」

「ハグ?抱き合うぅぅぅっ!!!」

「ああ、あったな。三洲が、それだと、動きが出すぎてシンプルさが無くなるって潰したけどな」

「赤池、失礼な言い草だな。潰した訳じゃないさ。事実を述べてやったら、提案した奴が”自主的に”

その案を引き下げただけだ」

「自主的、ねぇ・・・」

「と、云う訳だ、崎」

「・・・貸しにしといてくれ、三洲。感謝する」

「解ればいい」

いつもの柔和な笑顔で・・・でも、いつもと少し違う。

何とも嬉しそうに見えるのは、気のせいだろうか・・・三洲が微笑んだ。

「ま、今日も平和で何より、って事で」

矢倉が云うと、章三がポツリと呟いた。


「すべからく、世は事もなし・・・・・・か」


                        …Fin…


・Excuse2→