名前を呼んで・・・

   〜Name is called〜<5>




2階に着いたところで、階下から上がってきた葉山とバッタリと行き会った。

僕等に、正確にはギイに、気付いた途端、葉山のカラダがビクリと強張った。

ギイは両目を大きく見開いていた。

「葉山が戻ってくるのが見えたから、俺も戻ろうかと思ってな。そうしたら、崎が一緒に

来たいと云い出したから、一緒に戻るところだ。たまには気分転換もしないと、崎も息が

詰まるだろうから」

「そ、うなんだ。あ、えっと、それじゃ・・・。あ、でも。ぼく、その、み、蓑岩君に用事!

そう!用事があるから、あのっ、その。ギ、や。崎、くん。ごゆっくり・・・」

取ってつけたと明らかに解るいい訳をして、脇をすり抜けようとするところを僕が止める間もなく、

ギイが葉山の腕を掴んだ。

「・・・えっと。放してほしいんだけど」

「ダメだ」

振り払って行こうとする葉山に慌てたかのように、ギイは、逃がさないとでもいうように、

力が込めた。

「っつ」

葉山が痛みに思わず顔をしかめるのにも頓着せず、更にグイと身体ごと引き寄せた。

次の瞬間、抱き込むように抱きしめ、

「ダメだ、行くな、行かないでくれ」

「・・・」

肩口に額を押し付ける姿に、僕も含めギイが思い出したのかと思ったその時、

「崎、その位にしておけ。ここじゃ目立つ。何か思い出した訳でもないんだろう」

スッと三洲が間に入り葉山からギイを引き剥がす。

「え?あ、あ。そうだな。つい」

「葉山も、諦めて付き合え。・・・大丈夫だよ。俺が傍にいる」

葉山を安心させるかのように微笑みかけると瞬間、ギイの瞳が三洲を睨みつけるように

微かに眇められた気がしたが、

「三洲君・・・わかったよ」

小さく溜息をつきながら、葉山が頷くとホッとギイの肩から力が抜けた。

「なぁ、赤池。どう思う?」

矢倉がなんともいえない顔で僕に訊いてくるが、そんなの僕にだって解るはずなかった。

「さてね。いずれにせよ、いつまでもこのままって訳にもいかないんだし、いいんじゃないか。

成り行きに任せるってのも・・・これだけ揃ってるんだ。フォローはなんとかなるだろ」

「思い出した訳じゃないって云ってたな、三洲。でもって、ギイも否定しなかったんだよな・・・」

否定しなかった。と、云う事は恐らくギイは葉山を思い出した訳でも、記憶が戻った訳でも

ないという事だ。

なのに、それでも葉山に拘る様子を見せたギイ。



なぁ、葉山。お前はどうするんだ?



                     


・Excuse4→