独りで寂しくなんてならないで・・・<2>



こんな表情(カオ)見せるわけにはいかない。

心優しい、お人好しの利久に、要らぬ心配をかけてしまう。

「託生?どした?急に黙り込んで。具合でも悪い?部屋、戻った方が

良いんじゃないか?」

案の定、ぼくの様子を見て、利久が心配そうに声を掛ける。

「あ、うん。大したことはないんだけど。そうだね、具合が悪くなってからじゃ

遅いしね。部屋に戻るよ」

俯きながら、それでも、なるべく明るい声で返事をする。

と、目の前に陰が広がったかと思うと頭上で声がした。

「オレも無いぜ、虫歯。今まで1本も」

自慢気にすら聞こえる声。

「コツとか有るのかよ、ギイ」

「コツ?あるある。オレんち、食事は給仕してくれる専属のメイドとかいる上に、

マナーとか煩かったんだよ。だからな、当然食べてるものを分け与えられるとか

なかったからな〜」

「ギイ、それ、参考にならねぇじゃん」「げ〜、マッジでぇ」「それって崎家に生まれ育たなくちゃ

ダメってことか!」

やんやと盛り上がる面々に

「メンドーなだけだって」

苦笑して答えながら、ぼくの腕を引いて、つられて顔を上げるとそこにギイ、のアップ。

見慣れているはずなのに、いつまでたっても見慣れない美貌に見詰められて、

うっかり、やっぱりドキリとしてしまう。

「大丈夫か?託生。マジ、顔色悪いぞ。オレも部屋に戻るとこだったんだ。

ついでといっちゃなんだが、な。オレが部屋まで送っていってやるよ」

そう云うと利久に、だから、ついてこなくて大丈夫だからと伝えて歩き出す。

ギイ、一体いつから見てたんだろう。

レンズの奥で、心配そうな瞳がぼくを見詰めていたように思ったのは、

ぼくの思い過ごしだろうか。





ぼくの部屋のある2階と、ギイの部屋のある3階とを繋ぐ階段まで来たところで

「ギイ、ありがと。もう、大丈夫だから。1人で戻れるから。気にしないで、

そのまま部屋(ウエ)へ・・・」

「ば〜かっ」

最後まで言い切る前に、のんびりと失礼な一言で遮られた。

「あんなの、口実に決まってるだろ。ほら、託生もこっち」

云うとぼくの腕を強く引く。階上、300番(ギイのへや)へと。